上司は部下の仕事内容を知らない。
仕事を放棄しているからではなく、
部下がやっている仕事をした経験が
上司にないので、理解しようにも
理解ができないからである。
仕事上の、具体的なやり方や解決法に
関して、上司は部下にアドバイスを
与えることはできない。知識も技術も
まったくないか、あるいは不足している
のであるから、不可能だ。
上司よりも部下のほうが、その仕事に
関しては専門家であり、口出しする
ことは罪でさえある、ということだ。
ではどのようにして上司は部下を指導し、
成果を上げられるように導くか。
上下関係はあるが、基本的には仕事内容に
細かく関与せず信頼して任せるという
「棲み分け」をすることに他ならない。
専門家集団を率いるためには、お互いの
信頼しか共通項を見出すことはできない。
お互いの領域に手を出そうとすれば、そこに
衝突が生まれる。このラインより向こうには
立ち入らず相手を信頼して、仕事のやり方にも
判断にも口を出さないこと、これが「棲み分け」
である。
専門的なことに中途半端に口を出すことは
厳に慎まなければならない。にわか仕込みの
知識やスキルを振りかざして手を出すことは
仇となる。長い時間をかけて獲得した知識や
スキルに太刀打ちしようなどと考えないほうが
いい。失敗するだけでなく、専門家の期限を
損なうだけである。
やるべきことは、上下関係がある以上、結果には
口を出さねばならないこと、そして途中経過の
報告を欠かすことを許してはならないことだ。
これらを欠けば、上司としての責任を放棄する
ことに等しい。だがそれ以外のことには関与しない。
そこにこそ信頼が生まれる。
注意しなければならないのは、部下はうそをつき、
隠し、虚偽の報告をすることがあるということだ。
信頼はするが、疑いの目を持つことも忘れては
ならない。部下がそのようなことをした場合には
容赦なくペナルティを課すこともしなくては
ならない。
マキャベリの「君主論」には
「君主は部下に恐れられていなければならない」
とあるが、上司もそうでなくては立ち行かない。
「理解がある上司」と「部下に甘い上司」とは
まったく違うものだ、ということを認識しなければ
ならない。ナメられてはいけない。
部下と上司とは、どこまで行っても交じりあう
ことがない。そういう「棲み分け」が必要である。