その仕事をやったことがない人、あるいは
かつてはやっていたが今は管理職になって
現場を離れた人には、「最後の一歩」に
対する理解や想像力が不足している
ことが多い。
どういうことかというと、どんな仕事でも
最後におこなう「仕上げ」は難しいと
いうことだ。
しかし、注意すべきはその「仕上げ」は、
誰が見ても技術的に難しく困難だと
いうことではないのである。
むしろ、その仕上げは
「時間と手間さえかければ」
「だれにでも」
できそうで、簡単にできる「作業」に
見えるのだ。しかし、それがゆえに軽視
されがちであり、重要性が認識されない。
しかも、そんな「仕上げ」を十分注意して
行わなかったために、それまでのすべてを
台無しにしてしまいかねない危険がある、
重要な「最後の一歩」であることを認識が
されていないことも多い。
このような「最後の一歩」にあたるものに
「本の誤字脱字」がある。
本を出版するには様々な工程がある。
どの工程が重要だということはなく、
企画構成から始まって、本の装丁、価格、
本の内容、どれをとっても売れる要素
たりうる。誤字脱字を修正する校正作業も
その一つだろう。
誤字脱字をチェックすること自体は、
一見するとだれにでもできそうだ。
だれがやろうと、時間さえかければできない
ことではないようにさえ見えるだろう。
しかも、チェックした結果、なにも見つからない
ことだってあるし、あったとしても、本の内容を
根底からひっくり返してしまうほどの致命的な
ミスであることはまれだろう。これなら、やっても
やらなくても結果は同じだ。これらの理由から、
軽視されてしまいがちなのではないだろうか。
しかし、校正は本を出す際の「最後の一歩」で
あり、軽視されてはならない。
私は読書が好きであるが誤字脱字が多いと、
それだけでその本に対する信頼が揺らぐ。
読むのをやめてしまうことさえある。
作り手がきちんと気持ちを込めて作って
いないように思われ、そんな本を時間を
かけて読む気がしなくなるからだ。
「最後の一歩」は、例えるなら、何時間も
かけてドミノを並べていよいよ最後の一つ、
というところで油断したために手がすべり、
すべてのドミノを倒してしまうような事態だ。
それを避けるためにも、ぜひとも最後の一歩を
尊重し、それを行う人に対する敬意を忘れない
ようにしなければならない。