私の人事としてのキャリアのスタートは
給与計算の仕事であった。
はっきり言うが、給与計算の仕事は
二度とやりたいとは思わない。
なぜなら、まったく割に合わない
仕事だからだ。
割に合わない理由は、この仕事を
どれだけしっかりやっても評価される
機会に乏しく、さらにその重要性や
困難さが理解されることも少ない
からである。
要するに
「簡単な仕事でだれでもできるし、
空気のような存在で顧みられることが
ない」からだ。異論はあるかもしれないが、
主婦(夫)の家事仕事に似ているといえる。
毎月の給与計算にはミスが絶対に許されない。
間違えのない仕事をするのが当たり前で、その
ことが評価されることはない反面、間違えた
ときにだけ評価が下がってしまう。例えるなら
「配当が1.0倍の馬券」。当たっても掛け金が
戻ってくるだけで、決して勝つことはないが
外れたら掛け金は戻ってこない。
これもはっきり言うが、給与計算は
思っているほど簡単な仕事ではない。
法律にも数字にも強くないと務まらない
仕事である。
なぜなら、所得税や健康保険、厚生年金の
基本的な仕組みについて知っておかないと
対応できないことも多く、労働基準法など
労働関連法にもある程度明るくないと、特に
現在のような残業時間にうるさい時代には
対応できないからだ。
資格手当や配偶者・子供手当など、
企業・組織によって社員に支給している
各種手当についてもしっかり把握して
おかねばならない。それだけでなく、
働きやすい職場づくりのために、新しい
手当の新設にも知恵を出すことも求め
られるだろう。
これらに加えてツラいのが、支払日が決まって
いて遅らせることなど絶対に許されない、という
ことである。高いスケジュール管理能力がないと
仕事ができない。作業が遅れたからといって、
社員は許してはくれない。なぜなら、社員の
ほうも家賃やクレジットカードの支払いなどが
待っているからである。
間違いが許されない仕事に対するプレッシャーは、
やったことがある人にしかわからない。これが、
失敗してもそれ以上の成功を収めれば評価される
営業部門のような仕事をしている人と、人事や
経理部門との埋まらない溝、考え方の違いの
原因だろう。
「良い間違い」ができる仕事、間違いを
直ちに責められることなく、次の成功への
糧にできる仕組みがあることが、どれほど
社員のモチベーションにつながるか。
あの給与計算をしていた日々が教えて
くれている。