多くの企業・組織は、働く人に提供できる
利益を、金銭で示すことにしか関心がない
ようである。いや、それ以外の方法を
考えることを放棄している、と言った
ほうが正しいだろう。
優秀な人材を確保するために、そして
人手不足を解消するためには
「賃上げ」が唯一必須の方法と考えて
疑っていない。そんな企業・組織が
多すぎる。
はっきり言おう。
給料が一定水準以上であることは
前提条件にすぎない。
働く人が求めているのは
「お金には代えられない利益」である。
企業・組織がやらなければならないのは、
それがなにかを常に考えて知恵を絞り、
行動に移していくことである。
そもそも「賃上げ」といっても、
その金額が情けないほどに少ない。
ベースアップが3千円とか5千円ほどと、
ランチで食べる丼物を毎日大盛りにでも
すれば消えてしまうような金額ぐらいしか
アップさせることもできずに
「人材確保のために賃上げをした」と
胸を張る姿は、痛々しいだけである。
ベースアップだから、残業代や賞与の
計算のベースになる金額がアップする
ことになる。だから、実質的にはもっと
給料があがることになる、という反論も
空しいからやめてほしい。それですら、
一泊旅行でもすれば消えてしまう
ぐらいの金額にしかならないだろう。
つまり、働く人に給料で報いるという
考え方自体が、間違っている。
賃上げは、深い考えがなくとも、
だれにでも、すぐにもできること。
だから効果は少ないと考えるべきであり、
他との差を埋める、一定水準に達する
ために行うものを除き、賃上げは安易に
行うべきではない。
しかも、お金に対する欲望には際限が
なくなるものであり、効果が薄れるのも
実に早いものである。
1万円多くもらえば次は2万円欲しくなる。
そうではなくとも、1万円多くもらう状態が
数カ月も続けばそれに慣れてしまい、
ありがたみもなくなる。
賃上げの効果は、はなかく消えてしまう
ものである。
働く人に報いるためには、脳みそに汗を
かいて「働く人が求める利益はなにか」
を考え抜くことしかない。
それはつまり、この先の長い人生で、
あなたの企業・組織で働いたことを
「良かった」と思ってもらうためには
何が必要かを考えるということである。
その姿勢があれば、安易な賃上げという
結論には至らないはずである。
人は利益によって動く。だが、それが
金銭によってであると安易に考える
ことは、まったくもって働く人を
バカにした愚行である。