働き方改革を推し進めるために
人事部が果たす役割は大きい。
働き方改革を生かすも殺すも
人事部次第であるとさえ、
言っていいでしょう。
なぜなら、会社が決定した「方針」を
実際に運営していくための方法を
考えるのは人事部だからです。
この連載では、働き方改革の実現に
貢献できる人事とはどのようなものか、
そして、それとは逆に台無しにする
人事部とはどのようなものか、検証
したいと思います。
第十回のテーマは
「賃上げありき」
です。
天井がない
働き方改革を「従業員の満足度を
向上する取組み」と捉えるのなら、
「賃上げ」もその一環と考えられ
なくもありません。いくら働きやすい
職場でも、給与が安いということを
カバーするのは容易ではないからです。
「衣食足りて礼節を知る」と言いますが、
働きやすさも、ある程度の給与と待遇が
伴ってこそです。仕事のやりがいや社会的
意義の高さ、従業員のサービス精神に頼る
のも限界があります。給与を上げていく
ことは必要です。
しかし、給与金額に対する従業員の
満足度は長続きせず、すぐに慣れて
それが当たり前になってしまうこと、
そして際限がない。ということを
忘れてはいけません。
もっと高い給与を提示する企業は次から
次へと現れるので、終わりのない賃上げ
競争になるかもしれない。
にも拘わらず、昨今は給与水準の向上を
打ち出す企業が後を絶ちません。
新卒一年目で年収1000万円を支払う
幹部候補生を採用すると発表した、回転ずし
チェーンのくら寿司は話題になりました。
そこまではいかなくても、新卒給与を
2割、3割と大幅にアップすることを
決めた企業は枚挙にいとまがない。
2割と言えば金額にすると4~5万円に
なるでしょう。既存社員の毎年の賃上げは、
平均すればせいぜいが5~6千円くらいで
あることを想えば、とんでもない金額です。
方向性を間違えない
人事部の仕事は、現在の社員だけでなく
将来の社員のことを同時に考えていかな
ければならないところに難しさがあります。
すでに書いてきた「新卒社員の賃上げ」に
関して言えば、すでにいる社員の目には
どのように映るか、そして既存社員との
給与バランスはどうするかということを
考えなければならないということです。
もちろん対策は取っていて、既存社員を
新卒社員の給与が上回ることがないように
全体的な金額の底上げをするでしょう。
しかし、問題はそんなに単純ではない。
どういうことかというと、給与がアップした
状態で入ってきた新卒社員に対する、上司や
先輩社員の目が厳しくなる、ということです。
自分たちが入社した時よりもはるかに早く、
高い給与を受け取ることになる新卒社員への
嫉妬もあるでしょう。
これを現場の声に直すとこうなります。
「生まれたのが何年か遅かっただけで、
なぜこうも違うんだ?」
「今までなら数年は勤務しないともらえなった
金額を、なぜ初めっからもらえるんだ?」
「そんなお金がもらえるほど優秀なの?」
「入ってきたばかりで仕事ができるわけ
でもないのは変わらないじゃないか!」
これらに対処するには、かなりの配慮が
必要でしょう。世の中の動きとしては、
いかに新卒社員といえども給与金額を
ある程度はアップしないといけないのは
流れとしてあります。新聞等で知っていて
ある程度の理解もしている人は多い。
しかし、そのことは、既存社員にとって
「自分の身の回り」では起こってはいけ
ないことなのです。新聞等で目にすること
だけの「対岸の火事」であるべきであり、
いざ目の前に現実として迫ってきた時
には抵抗する。
このような「素直な感情」「当然の反応」に
人事部は十分に配慮しなければなりません。
賃上げに対する配慮に限らず、それができない
人事部が働き方改革を台無しにしてしまう。