「人材こそが最大の財産である」
企業がどんな人材を採用し、
どんな人材を採用しないのか。
その自由は各企業にありますが、
この点は共通するでしょう。
この考え方に立てば、ある程度までは
「採用すべき人」そして
「採用してはいけない人」
を定義することができる。この連載は
それをテーマとしています。
第4回のテーマは
「貧乏くじが引けるか」
です。
目先のお金を拾う
人手不足を背景に、賃上げをして
採用に有利なようにしようという
動きが加速しています。同じ仕事を
するなら給与は高いほうがいい。
その点では一定の効果はあるでしょう。
しかし、目先のお金に目がくらみ、
お金だけが目的の「金の亡者」を
引き寄せてしまう。そういう負の面を
考えるべきではないでしょうか。
そういう人は、もっと高い給与を
目の前にぶら下げられたら、ホイホイ
他所へ移ってしまうでしょう。
長い目で見た場合には、賃上げを
することによって採用をしようと
いう方向性はいつか行き詰まるという
点も見逃してはいけません。青天井で
給与を上げることはできないし、他の
企業との果てのない、勝者のいない
競争になってしまうからです。
新卒で年収1千万円を支払う幹部
候補生を採用すると発表した企業を
初めとして、2割や3割のアップは
珍しくもなくなってきています。
このような動きが、いつまでも
続くでしょうか?
もはや「賃上げ」「高い報酬」という
点での目新しさはなく、すでに
「前提」になってしまっています。
高い給与は当然として、それに
プラスアルファ何があるの?
という状態になりつつあります。
しんがり
もう20年以上前のことになりますが、
1997年11月、当時4大証券の一角を
占めていた名門、山一證券が自主廃業
しました。
2600億円以上もの「簿外債務」が
存在し、数々の不正があったことが
破綻の原因だったのですが、それを
社内調査という形でつぶさに明らかに
した12人の社員がいました。
後に「しんがり」というタイトルの本に
なり、WOWOWでドラマ化もされました
ので、ご存じの方も多いでしょう。
「しんがり」とは、敗走する軍の中で
最後まで戦場にとどまり追手を食い止める
ことによって、本隊の退却を助ける部隊
のことです。最も危険で、死傷者も多く
出ることになる。その成功が勝利に
つながることは決してない、損な役回り。
この12人は、上司や同僚が次々と
転職して新天地に移っていく中で、
自分の再就職問題を棚に上げて
社内調査を進めます。調査によって
破綻の原因が明らかになっても、
廃業が覆るわけでは決してない。
勝利はありません。
しかし、12人は「ケジメのために」
破綻の原因を突き止めようと奔走。
その結果、日本史上に残ると言われる
詳細かつ聖域なく踏み込んだ調査報告を
行い、絶賛されました。
自分の生活、キャリア、そして所属
していた企業の恥部を白日の下に
晒すことに対する批判もあり、
並大抵の調査ではなかったでしょう。
しかし、日本の金融市場はもとより
日本経済や社会に甚大な影響を与えた
自主廃業がなぜ起こったのか。それを
明らかにすることは、自分の生活や
会社の名誉をこえたところにある
「未来のため」になるという信念が
あったからこそできた。
この想いが「ケジメ」という一語に
集約されています。
お金ではない、なにかもっと大切な
ものに選択の基準を持ち、時には
貧乏くじともいえる道をあえて
進むことができる。お金で釣るような
姑息な手段を使えば、このような人材を
求めることは不可能になる。
お金による競争は今すぐにやめ、12人の
「しんがり」社員のような想いを持った
人に訴えかける採用を行うには、
どうすればいいかを考えるべきでは
ないでしょうか。